政策要綱

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目次

1
夢をもって「未来チャート」を
描ける社会を目指して

1 国民・市民が夢と未来を描けるように

(1) 個人の尊厳、憲法の価値を護る

① 社会的弱者の人権保障の拡充

 日弁連は長年にわたり、「子どもは保護の客体ではなく権利の主体である」としてさまざまな政策提言を行ってきました。2022年に子どもが権利の主体であることを明記した「こども基本法」が制定されましたが、具体的な権利規定を欠くこと、政府から独立した権利救済機関の設置が見送られたことなどの欠陥があり、引き続き改善を求めていく必要があります。
 また、子どもが権利の主体であるといっても、その権利を画餅としないためには、弁護士が、児童福祉、教育、少年司法、家事事件手続等々のさまざまな分野で、子ども本人の代理人として子どもの権利擁護活動を担う必要があります。しかし、現状では、少年審判における対象事件を限定した国選付添人制度を除いては、子どもの代理人活動に国費が支出される仕組みはありません。私たちは、弁護士費用の国費化・公費化実現のための運動を一層強化していきます。

 憲法第14条は、性別に基づく差別を禁止し、また、同第24条は、家族関係における両性の本質的平等を保障していますが、ジェンダーギャップ指数に象徴されるように、いまだに日本は、世界的にみて性平等の実現や男女共同参画が遅れており、様々な場面で、なお男女間格差や性差別が存在し続けています。日弁連では、あらゆる分野での実質的な性平等を実現するための活動を行ってきましたが、引き続き、その活動を進める必要があります。
 また、性的指向・性自認が多様化し、外国人の入国も増え、価値観も多様化しています。両性の平等はもちろんのこと、多様な家族の在り方や、性的指向・性自認、多文化・価値観の違いを認め合う寛容な社会の実現に向けた法制の検討をしていきます。

 私たちは、年齢や障がいの有無にかかわらず、すべての人が等しく生活を送る機会を与えられるべきであるとの理念のもと、本人の自己決定権を尊重し、その能力を活用していきいきと生活できる社会を目指し、高齢者・障がい者に対する差別解消、虐待・詐欺被害の防止等の権利擁護を推進します。
 2025年に法制審議会が取りまとめた民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案では後見人の権限を限定する等の方向性が示されており、私たちは、本人の意思が尊重される柔軟な成年後見制度の実現に尽力します。また、日弁連が2021年の人権大会において採択した「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」に基づく当番弁護士・出張相談制度の普及に向けて活動するとともに、障がいのある人への法的援助事業について国費・公費化の実現を目指します。

 外国人(外国籍者・無国籍者)に関しては、2021年3月に名古屋入管で発生したウィシュマ氏死亡事件をはじめとする入管収容問題、低迷する認定率と判断の不透明性等が引き続き問題視されている難民認定問題、埼玉県川口市のクルド人に対するヘイトスピーチや2025年の参院選を通じて顕在化した排外主義的な動向といった、山積する課題への対処が必要です。また、政府の新しい外国人労働者受入れ施策(総合的対応策や「育成就労」制度等)について、人権保障の実効的確保の観点から、外国人の人権基本法制定を視野に入れた日弁連の積極的関与と活動が不可欠です。

 政府では、消費者取引に関する法制を抜本的に再編拡充することを目指す消費者法制度に関するパラダイムシフトが議論されています。こうした中、私たちは、消費者被害の救済に資するような制度を積極的に提案していきます。また、不招請勧誘禁止やインターネット通販に着目した規律の整備などの特定商取引法の改正、オンラインプラットフォームでの取引の適正化、決済制度の多様化に対応する法整備、SNS型投資詐欺対策、違法収益の吐出し制度の創設などを目指して働きかけを行い、消費者の権利の保護に取り組みます。

 暴力団対策法施行後、暴力団構成員の人数は統計上は減少し、金融取引や不動産取引からの反社会的勢力排除も浸透してきています。しかしながら、いわゆる特殊詐欺をはじめとして近年問題となっている「匿名・流動型犯罪グループ」への暴力団の関与が疑われるなど、暴力団の活動は潜在化しています。
 私たちは民事介入暴力の根絶のため、警察や暴追センターと連携して民事介入暴力の被害の防止に努め、また被害者救済のため損害賠償制度の拡充を目指し、一方で暴力団を離脱した者の社会復帰についても、関係諸機関と連携しつつ、弁護士会にどのような支援が出来るか、検討していきます。

 犯罪被害者を取り巻く法制度は、この20年の間に大きく発展しました。また、2024年4月の総合法律支援法改正によって、被害者支援弁護士制度が創設され、施行に向けて準備が進んでいます。本制度の内容の詳細については引き続き検討されることになっていますが、対象となる犯罪や利用要件、利用者の費用負担などの点で、犯罪被害者が本制度の利用を躊躇することにならないよう制度設計する必要があります。
 また、犯罪被害者の経済的損失を早期かつ確実に填補できるよう、損害賠償金の国による立替払制度等を引き続き求めていくべきと考えます。

 えん罪は、えん罪被害者本人やその家族の人生を狂わせるものであるにもかかわらず、平成の刑事司法制度改革で積み残されていました。私たちは、えん罪被害根絶のため、この積み残された課題に取り組んでいきます。
 また、犯罪加害者家族についても、そのプライバシーが暴かれ、誹謗中傷に晒され、転居や退職・退学を余儀なくされたり、さらには自殺に追いこまれたりするなどの重大な人権侵害が発生している実情を放置することはできません。
 これまでも個々の弁護士が加害者家族の支援に取り組んできたところですが、私たちとしてもこれを重要課題と認識し、個々の弁護士の活動を支援する方策を検討していきます。

 公害問題では、四大公害訴訟をはじめとして、これまで多くの先輩弁護士が市民とともに立ち上がり、公害被害者を救済し市民の安全を守るべく全身全霊をかけて闘ってきました。私たちは、これからも、その理念をしっかりと受け継ぎ、騒音・大気汚染から近年のPFASによる地下水汚染やメガソーラー・大規模風力発電所建設問題まで、現在も続く多様で複雑化する公害問題に対し、市民の安全を守るために活動を続けていきます。環境問題では、気候変動対策としての脱炭素社会の実現や再生可能エネルギーへの転換を後押しし、持続可能な社会の実現を目指します。

 子ども同士のいじめ、障がい者差別、人種・民族差別、刑事施設や入管施設での人権侵害など、国内のさまざまな人権侵害に対応するため、①個人通報制度(国際人権条約で保障された権利を侵害された者が、国内で裁判などの救済手続を尽くしてもなお権利が回復されない場合に、人権条約機関に直接救済の申立てができる手続)の導入、②国内人権機関(政府から独立し、公的機関に対する調査を含む事実調査権限や調停・勧告等の救済措置をとる権限などを有する機関)の設置が急がれます。

② 格差是正等の貧困と人権をめぐる諸課題への対応

 非正規雇用の増加、格差の拡大は貧困問題を深刻化しています。私たちは、貧困問題を憲法第25条のみならず個人の尊厳にかかわる問題として、対応していきます。2025年には最高裁判所が生活保護費減額処分を違法と認めました。私たちは、日弁連が提唱する「生活保護法から生活保障法へ」実現に向けて活動していきます。また、貧困の連鎖を断ち切るため、最低賃金の引き上げ、ひとり親家庭の支援や子どもの教育に関する種々の支援など提言していきます。

 2018年に、働き方改革関連法が成立し、罰則付き時間外労働の上限規制の導入、仕事内容や配置転換の範囲が正社員と同じである場合における賃金その他の待遇の差別的取扱いの禁止などが定められました。しかし、日本は欧米諸国に比べて依然として労働時間が長く、また過大なノルマを課せられるケースもあり、特に劣悪な環境の企業、いわゆる「ブラック企業」も多々存在しています。また、セクハラ、パワハラ等のハラスメントの問題も解消されていません。私たちは、すべての働く人々の個人の尊厳が守られるような施策実現に向けて活動を行います。

③ 人権擁護とビジネスの共生、SDGsの推進

 国連では、1948年に世界人権宣言、1966年に国際人権規約、2011年に人権を尊重する企業の責任を柱の一つとする「ビジネスと人権に関する指導原則」(「指導原則」)が承認され、さらに2015年には「誰一人取り残さない」ことを宣言し17の目標からなるSDGs(持続可能な開発目標)が採択されています。
 個人の尊厳に基づく人権尊重を根本理念とする指導原則とSDGsの考え方は、人類の叡智の賜物です。国家をも凌ぐパワーを有する大企業のみならず、中小企業においても、その企業活動の中で企業を取り巻く利害関係者(ステークホルダー)の人権を尊重する具体的取組みを実行することこそが、企業自身にも大きなメリットをもたらします。そのような社会を実現するために、弁護士がその中核的役割を担う施策に取り組み、ビジネスと人権が共生する社会を目指します。

④ 立憲主義、個人の尊厳、民主主義を脅かす諸課題への対応

 ロシアによるウクライナ侵攻やガザでの惨状をはじめ、世界中で戦争の惨禍が収まりません。個人の尊厳や民主主義社会を破壊する、最大の人権侵害である戦争を許してはなりません。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三大原則や立憲主義といった憲法価値を守るため、積極的な活動を今後も進めていく必要があります。
 2014年7月1日の閣議決定により、専守防衛という自衛のための考え方を一方的に変更したことやその後の安保法制制定から現在の敵基地攻撃能力の保持議論の違憲性等を巡って、憲法の平和原則や第9条の解釈にかんがみ、正確な議論を発信していく必要もあります。
 さらには、ヘイトスピーチに代表される排外的主張の広がりが社会の内側から個人の尊厳や民主主義を破壊することにもなりかねないので、より一層の注意を払って活動をすることが求められていると思います。
 また、全ての憲法改正議論を不要と断じるべきではないものの、近年よく取り上げられる緊急事態条項や国会議員任期延長の議論については、憲法の解釈から、必要性が無いことを主張すべきと考えます。

⑤ SNS等を通じた新たな人権侵害、個人情報保護への対応

 デジタル技術の発展や生成AIの急速な進歩等により、情報へのアクセスや整理が容易になる一方、SNS等を通じた特殊詐欺・闇バイト等の犯罪行為や誹謗中傷による名誉毀損や著作権侵害など、新たな人権侵害が市民を脅かし、その対応に迫られる事態が生じています。
 また、デジタル化やAI等の利用により集積された個人情報の不正利用や漏えいのリスクは増々高まり、個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)が、個人データの利用停止・消去などを請求できる範囲の拡充とともに、個人情報漏えい等の発生時の報告や本人への通知を義務化するなど個人の権利・利益をより保護する方向で、2020年に改正され2024年に全面施行されました。しかしながら、EUの一般データ保護規則(GDPR)と比べると日本の個人情報保護・プライバシー保護はいまだ不十分であると言わざるを得ません。
 私たちは、科学技術の進化が人権を侵害するものにならないよう法的な観点から注視し、紛争解決に努めるほか、賠償責任充実化等の救済策についての検討、個人情報保護法の改正や個人情報保護委員会の運用改善を含め、新たな人権侵害のリスクを回避するための施策を講じるよう求めていきます。

(2) あらゆる地域・分野における法的サービス、司法アクセスを充実させる

① 司法過疎、弁護士偏在問題への対応

 地方裁判所・家庭裁判所支部管内に弁護士がゼロまたは1人しかいない、いわゆる「ゼロ・ワン地域」。日弁連は、三次にわたる行動計画を策定し、司法過疎・弁護士偏在問題に取り組み、ゼロ・ワン地域解消を目指してきました。その結果、2025年3月1日現在、ゼロ地域は解消し、ワン地域も2か所となっています。もっとも、女性弁護士がゼロの地域は依然として存在しており、支部単位では、全国に約60か所あります。私たちは女性弁護士に負担がかからないよう留意しつつ、女性弁護士の偏在対策に引き続き取り組みます。
 他方、最近では、大都市圏等に新規登録者が集中し、弁護士会によっては新規登録者がゼロまたは1名しかいない、「新ゼロ・ワン問題」と呼ばれる問題も発生しています。司法過疎地域の司法アクセス確保等の役割を担う日弁連のひまわり法律事務所の弁護士、法テラスの過疎地域対応事務所のスタッフ弁護士が各地で活躍していますが、これら事務所の担い手確保が課題となっており、解決のための方策を早急に検討、実行していく必要があります。
 私たちは、司法過疎地に赴く弁護士の育成、地域と新人弁護士のマッチング、司法過疎地での開業に対する経済的な支援等、司法過疎、弁護士偏在の解消に全力で取り組みます。

② 裁判所等の司法インフラ基盤の整備

 市民の司法アクセスを向上させるためには、裁判所の司法インフラの整備も欠かせません。各地の裁判所支部についても、地域の実情に応じた大規模支部の本庁化、多様化する紛争への対応、裁判官の常駐化、填補回数の増加、裁判所内の通信環境の整備など、デジタル化を踏まえつつ、高齢者・障がい者や子どもが利用しやすい新たな物的・人的司法インフラの充実を求めていくことが必要です。

 成年後見事件や相続事件の増加、離婚における子をめぐる紛争の複雑化により家庭裁判所の役割の重要性が増しています。しかしながら、家庭裁判所は、裁判官、家庭裁判所調査官等の配置が不十分であり、事件数に見合った調停室の確保もできていません。私たちは、家庭裁判所における司法手続を充実したものとし市民の権利が実質的に保障されるよう、家庭裁判所の人的・物的基盤の拡充に向けて働きかけていきます。

③ 裁判手続のIT化を始めとする司法のIT、AI実用化を巡る課題への対応

 裁判手続のデジタル化が進み、2026年5月までには、民事訴訟を中心に訴状等のオンライン提出やシステム送達も可能となり、訴訟記録は原則電子化されることとされています。家事手続、倒産手続、民事執行・民事保全手続等のデジタル化も進められています。裁判所の新しい裁判システムが市民や弁護士にとって利用しやすいものとなり、利用する者の手続保障が十分に図られるよう、各弁護士がシステムに習熟できるように、またシステム稼働後もより使い勝手のよいシステムとなるよう意見を述べていく必要があります。さらにIT化に取り残される市民がないよう配慮する必要もあります。

 刑事手続のIT化については、被疑者・被告人の権利保障の拡充や弁護人の利便性の観点から日弁連が述べてきた意見は必ずしも採用されず、残念ながら、捜査機関や裁判所の便宜という観点が前面に出された制度としてスタートすることになります。
 被疑者・被告人の防御権保障のためには、弁護人の利便性改善が重要であり、とりわけオンライン接見の実現は弁護士過疎地では喫緊の課題であることを踏まえ、私たちは、引き続き制度の改善を求めていきます。

④ 総合法律支援制度、弁護士費用保険制度等の拡充

 民事法律扶助は、資力に乏しい市民にとって、司法アクセスを保障するための重要な制度です。現行の代理援助、書類作成援助は、弁護士等の費用を立て替えるにとどまり、原則として利用者に償還を求めるものですが、司法アクセス改善の観点からは、償還免除の範囲の拡大や、さらには給付制の導入を目指していくべきです。また、申込み手続等が煩雑という問題もあり、申込み手続のデジタル化等も含め、利便性の向上を求めていく必要もあります。

 関連委員会等がけん引役となった日弁連の国費化実現に向けた長年の働きかけが実り、犯罪被害者等支援弁護士制度がスタートします。
 さらに、日弁連法律援助事業によって支援している、手続代理人を必要とする子ども(未成年者)、自力では生活保護を受けることが難しい高齢者・障がい者・ホームレス、退院や処遇改善を希望している精神障がい者、人権救済を必要としている在留資格のない外国人等の援助等について、私たちは、国費・公費化を求めていきます。

 民事法律扶助の資力要件を満たさない中間層については、司法アクセス改善のために弁護士費用保険制度の拡充が必要です。すでに日弁連と協定を結ぶ保険会社等は20社に及んでいますが、私たちは、さらなる協定先の拡大、自動車保険以外の保険商品における弁護士費用保険の開発促進、適正な弁護士報酬の確保など、弁護士費用保険制度が広く市民に定着するよう、その拡充に努めます。

⑤ 災害への対応、被災地支援の充実

 阪神淡路大震災や東日本大震災以降も多くの地震や豪雨等の災害が頻発しており、深刻な被害が発生しています。特に、2024年1月1日の能登半島地震と、追い打ちをかけるように同年9月に同地域で発生した記録的な豪雨の被害は記憶に新しいところです。
 被災者は、その生命・財産を脅かされ、生存権、財産権等の基本的人権を揺るがされているといっても過言ではありません。
 いつ発生するともわからない災害に対応するため自発的に形成された全国的な弁護士のネットワークが、被災地における多種多様な法的支援のニーズに応えるべく、活発に活動しています。
 私たちは、これら弁護士によるケースマネジメントなどを含む活動を積極的に支援していきます。そのために、平時からの研修等による研鑽を通じて弁護士の災害対応力の強化、さらには被害の予防、避災(災害を避ける)への対応にも取り組みます。また発災時に備えて各地の弁護士会と協力して被災者支援にあたる体制をより強化するとともに、全国の自治体と各弁護士会との間での災害復興支援に関する協定の締結等を進め、行政との連携を強化します。

(3) 司法制度の改善、改革等に引き続き取り組む

① 民事司法制度

 民事訴訟手続のIT化の普及を踏まえ、今後は利用しやすく頼りがいのある民事司法制度を実現するために、より実質的な改革に向けた取組みが重要となります。とりわけ、民事訴訟を適正かつ実効的なものとするためには、日弁連が提案している情報・証拠収集制度の拡充のための民事訴訟法の改正(当事者照会制度の実効化、文書提出命令制度の拡充、情報・証拠の早期開示命令制度の新設、秘密保持命令制度の拡充、依頼者・弁護士間の通信秘密保護制度の導入等)を、早期に実現することが重要です。

 損害賠償制度について、日弁連は、2022年9月、被害救済の充実・違法行為の抑止を目的とし、裁判所が、加害者が違法行為で得た収益の金額を考慮して損害賠償額を定めることができるものとする「違法収益移転制度の創設を求める立法提言」、及び、民法第710条(財産以外の損害の賠償)を同条第1項に改め、同条に、第2項として「前項の損害賠償の額を定める場合には、裁判所は、侵害行為の態様、故意又は重大な過失の有無、侵害された権利又は法律上保護される利益の性質、当事者の関係その他一切の事情を考慮する」との条項を新設する(「慰謝料額算定の適正化を求める立法提言」)2つの立法提言を公表しています。これらの提言を速やかに実現する必要があります。

 ADR(裁判外紛争解決手続)は、合意による柔軟な解決、簡易・迅速な解決を実現し得る手続であり、裁判手続と並び得る重要な紛争解決手段の選択肢となるものです。金融ADR、医療ADR、災害ADR、学校ADRなど多様な分野において展開しています。
 各種業界団体が主宰するものもありますが、これらのADRに弁護士が積極的に関与するとともに、弁護士会が主宰するADRを信頼性の高いものとして活発に展開していく必要があります。
 ODRは、これらのADRをオンラインで実施するものであり、一部の弁護士会において試行が始まっています。ODRは、利用者の利便性向上の観点から注目すべき手続ですが、地域に応じた紛争解決の重要性もあることから、バランスのとれたODRのあり方を検討していく必要があります。

② 刑事司法制度

 日本の刑事司法では、近年もえん罪事件が発生し、捜査機関が虚偽供述を強要し、裁判所が、罪を犯していない人を長期間身体拘束する判断をしたことが明らかになっています。無罪と推定される権利を尊重し、えん罪を防止するため、抜本的改革が必要です。特に、無罪を主張し黙秘権を行使する被疑者・被告人を、殊更に長期間身体拘束する「人質司法」と呼ばれる勾留・保釈の運用を改めねばなりません。また、不適正な取調べによる内容虚偽の供述調書作成を防止し、取調べ状況と供述経過を客観的に検証できるように、在宅被疑者や参考人の取調べを含めた全事件について、取調べ全過程の録音・録画を義務付けることが必要です。
 さらに、逮捕から勾留までの「逮捕段階」に被疑者国選弁護制度を拡大して、取調べを受ける前に弁護士の助言を受ける機会を保障した上で、供述しない意思を明らかにした被疑者の取調室への留め置きを規制しつつ、被疑者が取調べを受けるに際して弁護人を立ち会わせる権利を確立しなければなりません。また、弁護人とのオンライン接見を可能として、前述した弁護人の援助を受ける権利の内容をIT技術の発展に合わせて実質化する必要があります。そして公正な刑事司法の担保には適切な弁護活動に見合った国選弁護報酬の確保が必須ですから、最低限の経費の補償に満たない現状を改めて、経営維持に必要な収入時間単価の国選弁護報酬の実現を目指します。
 受刑者の処遇は、懲罰の威嚇によらずに、受刑者の自発性を尊重し、真の改善更生と円滑な社会復帰につなげるべきです。懲役刑と禁錮刑を統合した拘禁刑が導入され、受刑者の特性に基づく柔軟な処遇が行われるのを機に、日弁連が、法務省や地域生活定着支援センターを管轄する厚生労働省との連携を図っていくことが重要です。

 裁判員裁判では、直接主義・口頭主義に基づく公判審理が相当程度実現して、刑事裁判が活性化されています。しかし、裁判員制度とともに導入された公判前整理手続は、長期化が問題となっています。段階的な証拠開示を改めて、全面的な証拠開示を実現し、被告人側が速やかに防御準備できることが必要です。また、多様な市民の価値観を刑事裁判に反映するため、裁判員裁判の対象事件の拡大と、市民が裁判員を務めるための休暇の制度化等を目指します。

 被疑者・被告人、または、被疑者・被告人であった人で、障がいがあるため、または、高齢のために支援を必要する人(罪に問われた障がい者等)が、無辜の罪で処罰されないように、偏見等により必要以上に厳罰に処されないように、そして、繰り返し罪に問われないようにする必要があります。そのためには、その特性に十分に配慮した弁護活動を行うことができるような刑事弁護の取組みを進めるべきと考え、これに必要な法制度の構築を目指して取り組みます。

(4) 喫緊の課題に迅速に対応する

① 早急な再審法整備の実現

 えん罪被害者を救済する刑事再審法は、長年、法改正が行われていません。捜査機関が保有する証拠の開示に関する規定が存在せず、手続規定も不十分で、「再審格差」とも呼ばれる裁判体による格差が生じています。また、再審開始決定によってえん罪の疑いが明らかになっても、検察官が不服申立てをなしうることが救済が遅れる原因になっています。えん罪を晴らすため人生の大半を費やすほどの長い時間を要し、えん罪被害者やその家族の高齢化が深刻な問題となっています。
 このような問題は、実務運用の改善だけでの対応には根本的な限界があるため、再審請求審における証拠の開示命令、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、再審請求審における手続規定の整備などを内容とする再審法改正の必要が高いことは明らかです。さらに、再審開始事由の拡大、再審請求審における国選弁護制度等の項目についても法改正が望まれます。
 再審制度の見直しは、現在、法制審議会に諮問されています。党派を超えた過半数以上の国会議員が参加した「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟(再審法改正議連)」が、刑事再審に関する刑事訴訟法の一部を改正する法律案骨子たたき台を取りまとめていることを踏まえ、えん罪被害の深刻さや再審事件の審理の実情を踏まえた迅速かつ真摯な議論が行われるように取り組みます。

② 死刑制度の廃止に向けて

 日弁連は、2016年開催の福井人権大会において死刑を廃止すべきと宣言し、死刑廃止に向けた活動を継続しています。2024年には、日弁連が呼びかけて、元警察庁長官や元検事総長をも含む国民各界各層から成る「日本の死刑制度について考える懇話会」が設立され、同懇話会は全員一致で、「(現行の死刑制度を)現状のままに存続させてはならない」として、国会及び内閣の下に公的検討組織を設置するよう提言しました。まずは、この検討組織の設置を実現することが喫緊の課題です。
 法務省は、世論調査で死刑制度の存置はやむを得ないと回答している人が8割に上ることを理由に、検討組織の立ち上げにも消極ですが、懇話会の議論の経過から明らかになったことは、当初は死刑制度を支持していた人も、死刑制度及び犯罪被害者支援制度に関する国内外の十分な情報を得て議論をすると、死刑の廃止に傾くということです。
死刑制度を廃止した国で被害者遺族の権利保障を充実させてきた例にならい、国に対して犯罪被害者庁の設置と犯罪被害者支援制度の拡充を働き掛けることも必要です。
 私たちは、懇話会の提言を生かしつつ、丁寧な対話を重ねながら、日弁連の活動をさらに進捗させます。

③ 選択的夫婦別姓制度の実現

 民法第750条は、婚姻するにあたり夫婦同姓を義務付けており、夫婦別姓とする婚姻を認めていません。しかし、夫婦に同姓を義務付けることは、「氏名の変更を強制されない自由」を不当に制限するものであり、憲法第13条に反します。また、新たに婚姻する夫婦のうち約95%の夫婦において女性が改姓している実態を踏まえれば、事実上多くの女性からその姓の選択の機会を奪っており、憲法第14条、第24条にも反します。
 日弁連はかねてより、この問題は人権問題であるとして、選択的夫婦別姓制度の導入を提言してきました。そして、1996年の法制審議会でも子どもの不利益を検討するとしつつも、その導入が答申されました。ところが、約29年もの間、この問題は、国会で審議されることなく、先送りされてきました。この間、最高裁判所は2015年の判決や2021年の決定で国会での議論を促し、また、近時の世論調査では導入への賛成意見が反対意見を上回り、多くの地方議会で選択的夫婦別姓を求める意見書が採択され、経済団体等からも導入を求める要望が出されるなど、導入への機運が高まってきています。2025年の通常国会では、ようやく国会で審議入りすることになりました。日弁連では、2024年に選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議を行い、また、ワーキンググループを設置し、導入に向けた活動を活発に進めています。私たちは、同制度実現のため、一層積極的に活動していきます。

2 弁護士が十全にその役割を果たすために

① 弁護士の活動領域の拡充

 弁護士の活動領域の拡充は、公正・公平な社会の実現に必要であるとともに、弁護士の業務基盤の確立にも寄与します。そのため、後述するような、あらゆる規模の企業への支援、行政との連携、立法分野への関与、国内外における国際的な業務の推進等、これまでの日弁連の活動の成果を継承しつつ、さらに充実、発展させていきます。私たちは、各地域、各分野の実情や、国、公的団体、経済団体等各種団体のニーズに学び、連携を考えながら、未開拓の分野への挑戦についても積極的に支援いたします。

 中小企業は、企業数が全企業の約99.7%、従業者数が全体の約70%、生み出す付加価値額も全体の約56%を占め、日本の屋台骨を支えています。しかし、大企業とは異なり、弁護士による法的サービスが行き届いているとはいえません。日弁連では、ひまわりほっとダイヤルを設置し、中小企業庁や関連団体と連携しその普及に取り組むことで、中小企業の弁護士へのアクセス障害の解消に務め、また、創業、事業承継・再生等の分野別の法的支援活動に取り組んでいます。
 私たちは、引き続き、このような中小企業支援を全国で進めていきますが、他にも、第三者委員会に関する日弁連ガイドライン等、大企業を含むあらゆる規模の企業のコンプライアンスやガバナンスを支える制度・仕組みの普及を進め、公正な企業活動を後押ししていきます。

 自治体が行う事務は、福祉、教育、産業振興等、市民の生活に直結するあらゆる領域にまたがっており、社会の隅々まで法の支配を確立するためには、自治体その他の行政との連携が不可欠です。また、国会議員の政策立案を支援するなど、立法分野においても弁護士の関与が必要なことはいうまでもありません。
 日弁連では、任期付公務員や政策担当秘書等の人材輩出、弁護士による包括外部監査人の普及、弁護士ができることをわかりやすく一覧化した「お品書き」作成による外部弁護士の活用の推進等に取り組んでいます。私たちは、弁護士がさらに行政、立法分野に関与できるような土壌作りに取り組んでいきます。

 大企業のみならず中小企業でも海外展開が活発化しており、渉外事務所だけではなく、国内業務を中心とする弁護士においても、中小企業の国際的な契約や紛争解決に関する法的助言を求められています。また、日本社会の国際化を反映し、渉外家事・相続、外国人の権利保護等、個人向けの国際法務のニーズも増えています。さらに、諸外国に対する法整備支援活動に携わる弁護士や国際機関に勤務し国際業務に携わる弁護士も増えています。
 日弁連では、中小企業国際業務支援弁護士紹介制度の運営、日弁連海外ロースクール推薦留学制度等による人材育成、各種国際交流活動等、様々な国際活動を行っています。私たちは、さらにアジア諸国との連携も重視しつつ、国内外における国際的な業務の推進を後押ししていきます。

② 弁護士業務妨害の根絶

 弁護士業務に対する卑劣な妨害は、離婚事件(面会交流を含む)、成年後見事件や国選事件を含む刑事事件等、ごく一般的な事案において多発しており、弁護士であれば誰にでも起こりうるものです。妨害の主体としては、相手方当事者が典型的ですが、依頼者や国選事件の被疑者・被告人から妨害を受ける例もあります。妨害の手段としては、暴行脅迫、面談強要、多数回・長時間電話、濫用的懲戒申立等のほか、近時はSNSを利用した誹謗中傷等、影響が広範囲に及び被害回復が困難な事案が急増しており、その被害は深刻です。このような業務妨害は、弁護士に対する攻撃というだけでなく、妨害により弁護活動が委縮すれば、その依頼者の権利擁護にも支障をきたすという意味で、市民への攻撃であるともいえます。
 弁護士が職務を全うし、市民の人権を守るために、私たちは、妨害に苦しむ被害弁護士を支援し、かつ、不当な妨害を根絶するべく、全国の弁護士会の弁護士業務妨害対策委員会に積極的に働きかけ、①対策ノウハウの提供、②支援弁護士による相談・助言、妨害者への通告や仮処分等の法的手続、③警察その他関係機関との連携等を通じて、弁護士が十全に役割を果たせる環境を整えます。

③ 弁護士業務を巡る最先端技術(AI等)への対応

 生成AIを始めとする技術革新はめまぐるしく進化しており、個人・企業を問わず、日常的に活用されています。法曹実務においても、文書作成、リーガルリサーチ、契約書レビューなどの他、ODRなど様々な場面でのAIの活用が考えられるところです。
 もっとも、こうした最先端技術の活用にあたっては、個人情報・企業秘密の漏洩、著作権侵害等、法的リスクに注意する必要があり、弁護士業務との関係では、弁護士法第72条違反の可能性も指摘されています。技術の発展は、画像、動画、音声データ等の証拠の改変も容易にし、訴訟活動に大きな影響を及ぼすものとなりえます。また、生成AI等の活用が進めば進むほど、弁護士の業務がAIに代替されるとの指摘や懸念が大きくなることも予想されます。そのため、こうした生成AI等の最先端技術を巡る新しい問題に適切に対処できるよう、弁護士の研修機会を充実させるとともに、弁護士会による適切な問題提起と監督を行う体制を整えることが必要と言えます。
 私たちは、弁護士倫理や法令遵守に留意しつつ、弁護士業務で効果的にAI等を活用できる方法を調査・検討していきます。また、加速しながら発展する最先端技術とそれに伴う社会の急速な変化に取り残されることのないよう、技術革新への理解や知識を深める努力も怠らず、AI等を活用すべき場面と引き続き弁護士(人間)が行うべきことを明確にし、弁護士が社会や利用者に提供できる価値を一層わかりやすく提案していきたいと考えます。

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弁護士、弁護士会の夢ある
「未来チャート」を描くために

1 弁護士自治、弁護士法の理念を守り、弁護士会運営の活性化を図る

① 弁護士による不祥事、非弁、業際問題への対応

 近時、ロマンス詐欺事件における弁護士による二次被害や、巨額の預り金の横領等の不祥事が多く発生しています。これら不祥事は市民の弁護士への信頼を裏切るもので、弁護士自治の根幹を揺るがしかねない事件です。これらの問題に対応するための業務広告や預り金に関する規程等の見直しを踏まえ、それらが適切に運用されるよう取り組んでいく必要があります。さらには、広告で集めた事件について、「つまみ食い」のような不適切な処理をさせない取組みも、市民からの信頼を守るために必要です。
 また、弁護士の不祥事の裏には、弁護士を利用する非弁業者が存在している場合があります。非弁業者に関する日弁連・弁護士会での情報共有や共同対応等を強化していくとともに、彼らに利用されることのないよう会員への対応策の周知にさらに取り組んでいきます。
 非弁及び非弁提携弁護士の問題は、最終的に依頼者である市民の不利益につながり、弁護士の信用を害するものですから、会立件や事前公表制度を適切に活用して、被害の拡大を防止することにも取り組みます。
 いわゆる業際問題では、家庭裁判所における手続代理権の獲得を目指す他士業の動きなどを踏まえ、資格制度に基づく互いの領域を明確にしていくとともに、法務省や国会議員への対応も必要です。そのうえで、最終的に市民に被害を及ぼす可能性のある、権限を超えた隣接業種の逸脱行為等については、日弁連・弁護士会で広く情報を収集し、厳しく追及していく必要があります。

② 弁護士会におけるDEIの推進

 近年、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)に、個々の違いに応じた対応を行うことで、不公平が放置される状態を変革すべきというエクイティ(公平性) の視点が付加されたDEIという考え方が注目を集めています。日弁連でも2024年2月、「ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」を行い、日弁連内部において副会長及び理事のクオータ制を導入し、政策決定過程での女性の参加拡大を目指すなど、継続的な取組みを行いつつ、弁護士・弁護士会の活動の更なる活性化を進め、それによって、市民社会の期待に応えると共に、全ての人の人権が尊重される公平・公正な社会の実現、一人一人がありのままで受け容れられ活躍することのできる社会への貢献を目指す、としています。
 私たちは今後、ジェンダーギャップの解消にとどまることなく、LGBTQ、障がい者、民族・外国籍・宗教、育児・介護等を含めた家族関係等の属性にも配慮し、より積極的にDEIの推進に取り組んでいきます。

③ 弁護士会の業務のIT化、OA構築を巡る情報提供等支援

 日弁連では、弁護士会の事務効率化の観点から、登録事項変更等の申請事務についてオンライン手続を可能とするシステム開発を進め、手数料無償化と合わせて会則等の改正を行いました。このオンライン化・無償化の対象を、その運用状況等も踏まえ、順次広げていくことが必要です。
 さらに、弁護士会や会員のニーズを踏まえつつ、弁護士会業務のIT化、OA構築のために、私たちは、後述するように、希望する弁護士会には汎用性あるシステムの提供を行うなどの新たな支援を行うことを検討したいと考えています。
 また、日弁連においても、コロナ禍を契機として、委員会等へのオンライン参加が進み、会員の利便性が向上し、また、日弁連から弁護士会等への文書送付方法の見直しが行われ、メールによる送付が原則となるなどの効率化、費用削減も図られました。
 今後も、会員の利便性向上や弁護士会業務の事務効率化のため、制度面・運用面の改善を不断に実施していくべきです。

④ 小規模弁護士会への支援

 弁護士の活動領域の拡大に伴い、各弁護士会が担う事務は質量ともに増大しています。弁護士会員の人数を基準とした従来の財政的補助の制度を維持継続するのみならず、各弁護士会における重要施策の実施状況等の実情にあわせたきめ細やかな個別的な財政支援を検討する必要があります。
 また、弁護士会事務の効率化の観点からはデジタル化が有益であるところ、各弁護士会がそれぞれにシステム開発等のコストを負担することは効率的ではありません。既に述べたように、私たちは、各弁護士会に共通する弁護士会事務の効率化に資するシステム等を日弁連において開発し、各弁護士会に提供していく取組みを検討したいと考えています。

⑤ 日弁連の財務、広報

 日弁連の事業活動支出の90%以上が会費収入によって賄われています。会員のためにも、引き続き適正な支出に努めなければなりません。他方で、物価等の上昇による支出の増加が見込まれる時代において、日弁連の活動の維持・発展には、さらに確固たる財務基盤を確立する必要があります。
 業務のIT化、オンライン化、ペーパレス化による支出の削減、犯罪被害者支援制度で実現したように会費によって賄われている様々な公益活動の国費化をさらに拡大していくとともに、会費以外の収入の柱を作っていくことも検討したいと考えています。
 また、日弁連は、日本最大規模のNGOの一つというべきものであり、その活動は、多様かつ有益であるにもかかわらず、市民や社会に十分に伝えることができていない側面があります。日弁連が発信する意見や情報は、多岐にわたり、具体的な知見に裏付けられており、重要な問題提起を含むものが多くありますが、情報の受け手にとって必ずしもわかりやすいものになっていない場合があります。自ら情報を発信することはもとより、第三者(メディア、会員・市民のSNSによる発信など)に引用してもらえるように、情報の提供方法(提供媒体や提供内容)を工夫することが重要です。広報室等の活動をより一層充実させることにより、メディアとの適切な距離の関係を構築するとともに、会員・市民に分かりやすく、親しみやすい広報を目指していくべきです。

2 弁護士の基盤と協働を強化する

① 若手弁護士への支援

 これからの司法を担っていく若手弁護士への支援は、弁護士業界や司法の明るい未来を創るために必要不可欠です。
 新人弁護士の就業状況は一定程度改善してきましたが、ミスマッチ等による短期間での移籍や意に沿わない独立開業を余儀なくされる事例も少なからず存在します。勤務弁護士の就業環境の実態調査や情報収集に努めるとともに、経営者弁護士に対する啓発や研修を行うなど就業環境改善に向けた支援をしていく必要があります。
 また、若手弁護士の業務開拓や独立開業のためには、基礎的な実務対応力の涵養が重要であり、そのための研修やOJTの機会を一層充実させる必要があります。そして、様々な専門家や起業家との連携や人脈の形成も、若手弁護士の情報収集や経済的基盤の確立に資するものであり、そのための交流の場を提供していくべきです。さらに、各業界のニーズや弁護士による実際の取組み事例を調査し、若手弁護士にとって有益な情報提供を行っていくことも重要です。
 これまで日弁連では、若手弁護士サポートセンターを組織して若手弁護士に対する開業・業務支援等に取り組んできましたが、その活動を継続しつつ、さらに拡充することで、若手弁護士の就業環境改善や業務開拓等に向けた手厚い支援を実施していきます。

 これからの若手弁護士に対する支援と同様に、いわゆる谷間世代など政府による十分な支援が得られなかった世代へのサポートは引き続き必要です。これらの世代を含む若手・中堅弁護士が、経済的事由による制約をはねのけて、さまざまな活動に積極的に従事できるように、2021年に発足した若手チャレンジ基金をさらに充実させるとともに、政府による財政的支援の途も模索していきたいと考えます。

② 組織内弁護士と大規模事務所について

 組織内弁護士は、統計を入手可能な企業内弁護士に限っても、その総数は3,372名となり、全弁護士人口に占める割合は7.4%に至っています(2024年6月末現在)。また、近年、法律事務所の大規模化が進むとともに、新人弁護士の採用規模も年々増大し、大規模事務所に勤務する弁護士が一層増加しています。
 弁護士、弁護士会が「夢」と「未来」を描くためには、あらゆる場所で活躍する弁護士が協働し、弁護士会運営に参画し、その活性化を図ることが必要です。そのためにも、私たちは、組織内弁護士や大規模事務所の弁護士との対話等を通じて直面する問題や実情を聴き取り、その課題を共有するとともに、何より、弁護士会活動への一層の参加を呼びかけ、弁護士会運営の更なる活性化に活かしていきます。

③ 民事法律扶助制度立替基準等の改善

 現行の民事法律扶助報酬は業務量に見合ったものになっていません。司法アクセス確保のために持続可能な民事法律扶助制度とすべく、業務量に見合う報酬基準とすべきです。
 特に離婚調停事件は、その業務量に照らして低額なものとなっており、代理援助の着手金について20万円(税別)を下回らないものとすべく、取組みを進めます。 また、現在離婚関連事件の代理援助において行われている関連事件減額・困難案件加算、離婚等の身分変動が得られた場合の報酬における評価、扶養料等の定期給付金の報酬に関する受任者の直接回収の制度についても、受任者の業務量の観点から、引き続き制度及び運用の検討・見直しを行うべく取り組みます。

3 未来の弁護士とともに夢を描く

① 法曹養成制度のあるべき姿を検討する

 2019年の法改正によって、法学部に法曹コースが設置され、学部3年卒業から法科大学院既修コース入学といういわゆる「3+2ルート」が拡大するとともに、法科大学院在学中の司法試験受験が可能となりました。
 この制度改革によって、法科大学院志願者はこの5年間で約2倍に増加し、在学中受験者も高い司法試験合格率を示しています。また、法曹コース在籍者の女性割合が4割を超えている点も注目されています。法科大学院制度は、存亡の危機すら叫ばれた時期から、安定化に向けて、大きな変化を遂げています。
 他方で、在学中受験制度の導入によって、法科大学院の学修が司法試験科目偏重となっているのではないか、また、法学部生を主眼においたこの改革の影響で、他学部出身者や社会人経験者に負の影響が生じ法曹の多様性が縮小されていくのではないか、といった課題も指摘されています。
 制度改革の成果を着実に定着させるとともに、法科大学院制度創設時の理念の実現を図るべく、関係諸機関と連携しつつ、これら課題の解消に向けて取り組んでいきます。

② 法曹志望者増加のための取組み・新法曹偏在への対応

 法科大学院の制度改革、就職状況の改善に加え、地道に続けられてきた日弁連及び関係諸機関による志望者増加の取組みの成果によって、法曹志望者は回復しつつあります。また、「来たれ!リーガル女子」をはじめとした、各所での女性法曹増加の取組み等によって、近年司法試験合格者の女性割合は増加の一途を辿り、昨年度は初めて3割を超えました。有為で多様な人材が法曹を目指し、社会のあらゆる分野で活躍するよう、これらの取組みを一層強化します。
 一方、新規登録弁護士がゼロまたは1人にとどまる弁護士会が近時増加し、弁護士の地域偏在が「新ゼロ・ワン問題」という新たな重要課題となっています。現在進められている、地方で弁護士活動を行う魅力を法科大学院生等に伝える取組みを広げるとともに、各地域の実情を踏まえつつ、丁寧な対応を行う必要があります。


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